<サイゾーウーマン>「有名人のがん報道」に関するインタビュー記事

サイゾーウーマンから取材を受けました。その内容が記事となっています。

最近の「有名人のがん報道」には多くの問題があります。情報の不正確さや、過去の行いとがんを結びつけること、積極的な励ましが大事と思わせること、がんを公表することを美徳のように言うことなど、それらがなぜ問題なのかを解説させてもらいました。

それを踏まえて、「がん患者とどう接するべきか」を私なりに解説しています。

池江璃花子選手、堀ちえみさん……有名人から「がん公表」を受けた我々が“すべきでないこと”

がんになった家族/友人に何かをしてあげたい。でもどうしたらいいかわからない人へのヒントが凝縮されていると思います。ぜひご参考になさって下さい。

<講談社サイト記事>がん研究者が心の底から「標準治療を選んで!」と訴える理由

講談社サイトに寄稿した記事の、もう一つの記事をご紹介します。

ネット/書籍に広がる嘘に騙されて、効果が証明されていない代替療法を選び、病状を悪化させてしまうがん患者が増加してます。

なぜ、代替療法を選ぶのが危険なのか、実際のデータを用いて解説しました。本人のため、家族のため、本当に本当に、標準治療を選んでいただきたいです。

がん研究者が心の底から「標準治療を選んで!」と訴える理由

 

この記事は大変に多くの方に読んでいただいているようで、掲載直後には「はてなブックマーク」のトップも飾ったようです。多くの方に読んでいただけるのはとても嬉しいです。

がん患者・家族の誤解が解けて、安心してがん治療を受けられるようになることを心から祈っています。

<講談社サイト記事> 手を出してはいけない「がん未承認治療」の見分け方、教えます

最近、講談社のサイトに2本の記事を寄稿しました。その1本目のご紹介です。

 

がん患者さんの中には有効性の確認された標準治療以外にできることはないかと、未承認治療を試みる方もいます。ただ未承認治療は玉石混淆で、どれを選ぶかが大変に難しいです。今回はこの未承認治療の中で、期待できる治療と怪しい治療をどう見極めるかを解説しました。

未承認薬の中では価格が高いものほど、効果が期待できると勘違いしている人が多いですが、実際には基本的に無料で行える後期臨床研究に進んでいる薬が、最も高い有効性を期待できます。

高額販売の未承認薬は開発初期段階であったり、すでに効果が確認できなかった薬が多く入っており、特に注意が必要です。

一般の方はネット/書籍で紹介されているがん治療の中には効果のあるものが結構あると思っている人が多いです。しかし、実際は今回にお示ししたように、有効なお薬は滅多にありません。

がんは本当に難しい病気です。ネット/書籍では少数例のケースを過度に強調して誤解させていますが、実際に多数例で厳密な検討をするとごく少数の治療しか本当に有効ではありません。

がん専門医が未承認治療を積極的にお勧めすることがほとんどない理由は、今回にお示ししたように、開発後期にあるような薬でないと、有効である可能性は極めて低く、期待が十分にできないためです。

 

記事をぜひ読んでいただければと思います。

手を出してはいけない「がん未承認治療」の見分け方、教えます

<毎日新聞・取材協力記事>補完代替療法に頼る危険性

2019年2月6日の毎日新聞朝刊に、

「がん大国白書 その日に備えて」という連載記事の一つである

 「補完代替医療のみは危険 科学的証明なし、食事療法など 生活の質、改善には効果も」

が掲載されました。

がん患者さんが食事療法などの補完代替療法に頼ることの危険性を解説した記事が載っています。私のコメントも記事中で紹介されています。

とても大事な内容ですので、ぜひ多くの方に読んでいただければと思います。

 

本文だけ少しこちらでご紹介させてもらいます。詳しくは新聞記事をお読みいただければと思います。

<本文抜粋>
医師に頼らず、健康食品でがんを治そうとする人は少なくない。食事による治療効果を強調するビジネスも存在するが、どこまで期待できるのか。その「実力」を振り返る。【高野聡】

「玄米食や野菜スープなどいろんな食事療法をやりましたが、どんどん体調が悪くなりました」。熊本県錦町で夫とともに自然栽培の「錦自然農園」を営む内布恵美子さん(54)は約1年前、標準治療の一つである抗がん剤の利用を拒否した日々をこう振り返る。

2016年秋、リンパ節転移のある進行性の大腸がんが判明、大学病院で抗がん剤治療を始めた。ところが直後から極度の冷えや手足のしびれ、味覚障害などの副作用が表れた。内布さんは「自分には合わない」と考え、使用から1週間で主治医に治療の終了を依頼した。

がんは1年もたたず肺や肝臓、おなかに転移した。野菜スープや玄米食といった食事療法だけでなく、健康食品やサプリメントなども試したが進行を止められず、体の痛みで食事も取れなくなり、18年3月までに体重は10キロ減少した。

考えを変えたきっかけは、動画サイトで知りあった宮崎善仁会病院(宮崎市)の押川勝太郎医師の助言だ。勧められた痛み止めを近所の病院で処方してもらったところ、すぐに楽になった。以後、押川さんの下で抗がん剤治療を再開、食事も取れるようになり体重も回復した。

押川さんは「副作用に対抗できる体力をつけるには、体重を増やす必要がある。玄米食はやせてしまい逆効果だ」と説明する。内布さんは農園のブログで食事療法への過信を戒める情報発信を続けている。

科学的効果が証明されていない食事療法などを「補完代替医療」と呼ぶ。米国立がん研究所は「通常医療と見なされていない、さまざまな医学・ヘルスケアシステムや施術など」と定義。種類もサプリメントや運動、しんきゅう、マッサージ、ヨガ、音楽療法などと幅広い。日本でも標準治療と組み合わせた「統合医療」が関心を集めている。

東京都立駒込病院の鈴木梢医師らが15年に、患者遺族を対象にアンケートすると、53%の患者が補完代替医療を受けていた。目的は「精神的な希望」「免疫力向上」「病気の進行抑制」などが上位。「病気の治癒」を挙げた人が約半数もいた。

だが、いずれの補完代替医療もがんの縮小効果はない。補完代替医療に詳しい大野智・島根大教授は「確認されているのは、はり治療で口が渇く副作用を改善したり、ヨガや運動でリラックスしたりと、身体症状の緩和や生活の質(QOL)の改善につながるものばかり。補助的な利用が望ましい」と話す。厚生労働省研究班の「がんの補完代替医療ガイドブック第3版」は「補完代替医療のみは危険」と警告している。

補完代替医療に頼り過ぎると弊害もある。乳がんや大腸がんの患者らを米チームが調べたところ、補完代替医療だけに頼る患者は、死亡リスクが標準治療だけの患者より高かった。補完代替医療を併用した標準治療の患者でも高かった。補完代替医療を頼り、標準治療がおろそかになるためとみられる。米エモリー大ウィンシップがん研究所の大須賀覚医師は「補完代替医療を過信し、標準治療を適切に受けないのは危険だ」と指摘する。

予防に有効でも治療できない

国内には糖質制限や玄米食など、食事によるがんの治療効果をうたう書籍が多い。大須賀さんは「日本は『食が健康をつくる』という文化があり、食事を通じて病気を治そうという意識が強い」と分析する。

だが現実にはがんの再発率や生存率の改善が科学的に確認された食事療法や健康食品はない。食事の効果を強調する書籍の多くは再現性の低い、個人の経験に基づいている。

大須賀さんは「がん予防に有効な食品でも治療はできない。長期間にわたり健康維持を求める予防と、短期間でがん細胞の駆逐効果を狙う治療は違う」と強調する。

鈴木さんらの調査によると、補完代替医療にかけた費用は10万円未満が6割。一方、300万円以上も5%いた。利用した患者の約半数は主治医らに相談しておらず、適切な助言が受けられた患者も少なかったという。

鈴木さんは「補完代替医療は幅が広く、どれが適切か把握するのは難しい。患者はウソの情報もあることを認識し、正しい情報か見極められるよう心がけてほしい」と話す。

あなたが知っておくべき がん治療の現状

国立がんセンターは定期的にがんに関した統計データを公表しています。この資料は大変に貴重なもので、このデータを見ると、日本のがん治療の現状を読み解くことができます。

今回は最新データの中から、皆さんに特に知っておいてもらいたい大事なデータをピックアップして、それに私の説明を加えて、がん治療の現状を解説したいと思います。

ネットにはがん治療に関する様々な情報が広がっていますが、曲解や嘘も多く、実際の現状を誤解されている方も多いです。怪しい情報に踊らされて、間違った判断をしないためにも、日本のがん治療の現実を正しく知ってもらえればと思います。

がん患者数・死亡数は増加している

がんでどのくらいの人が実際に亡くなられていて、どのぐらいの人が新たにがんと診断されているかをまずお示しします。

  • 2017年にがんで死亡した人は373,334人(男性220,398人、女性152,936人)
  • 2016年に新たに診断されたがん(全国がん登録)は995,132例(男性566,575例、女性428,499例)
  • 生涯でがんで死亡する確率は、男性25%(4人に1人)、女性15%(7人に1人)

となっていて、日本国民のかなりの人ががんに罹患してなくなっていることがわかります。このがん死亡者数は年々増加しています。

では、なぜ増加しているのでしょうか?

増加しているということを知っている人は多いです。しかし、その理由を正確に理解していない人も多くいます。人工添加物を食べるからだとか、携帯電話の電磁波の影響だとか、果ては病院の治療が悪いから、どんどん亡くなる人が増えているとか、様々な謎な解釈がネットなどには書かれていたりします。それは本当でしょうか?

もちろん、そんな事実はありません。そのようなことが影響してがん患者さんが増えているという証拠はありませんし、病院治療がうまくいかないから亡くなっている人が増えているなどという事実もありません。なぜならば治療によって助かる人の割合は確実に上がっているからです。これについてはあとで詳しいデータを示して説明します。

この死亡数増加の最大原因は高齢化です。

以下のデータを見てください。

こちらは各年齢層での死亡数を表したグラフです。こちらからわかることは、男女とも日本のがん死亡者数を上げているのは80歳以上の高齢者の存在です。がんは高齢になると発症する確率が劇的に上がります。急激な高齢化の進展によって、超高齢者の人口が増加して、がん患者数と死亡数を急激に押し上げることになりました。

このグラフからもう一つ読み取れるのは、80歳以下の世代でがんで亡くなる人の数は減っていることです。これは予防・検診などの発展で、がんになる人の数が減ったことと、治療が進歩したことで亡くなる人の数が減っているためです。

高齢になるとがん発生率は上がる

高齢者になるとがん罹患率が上がるという話をしましたので、それがどのぐらい変わるのかをデータでお示ししておきます。

このデータは各世代でのがん罹患率を示したグラフです。60歳を過ぎると急激に上がっていき、数千倍にもなることがわかるかと思います。女性の方が緩やかなカーブになっているものの、やはり高齢者になるとがんになる確率は飛躍的に上がってしまいます。

がんは正常細胞に遺伝子異常が積み重なり起こります。高齢になってくると遺伝子変異が蓄積してがんを起こす可能性が上がります。また、異常が起こった細胞を取り除く能力が低下することなどが影響して、発がんする可能性は飛躍的に上がってしまいます。

 

<週刊医学界新聞寄稿>余命に関するコミュニケーションをどう行うか

昨年に、医療者向けの新聞である週刊医学界新聞からご依頼をいただきまして、余命に関するコミュニケーションをどう行うかについて、前後半の二回に分けて解説記事を書かせてもらいました。

主に若い医師に向けて、がんの余命宣告はなぜトラブルをたくさん起こすのかについて、それを踏まえてどのように余命に関するコミュニケーションを行うべきかについて、私なりの切り口で解説をさせてもらいました。少し難しい用語もありますが、一般の方でもご理解していただける内容になっているかと思います。

余命に関するコミュニケーションをどう行うか(前編)
余命宣告はなぜ不正確になるのか

なぜ余命宣告は不正確になるのか、がんの余命というデータの特徴を解説しています。

余命に関するコミュニケーションをどう行うか(後編)
信頼関係を築くコミュニケーションとは

医療者側と患者側では余命データの捉え方が違うという点に注目して、どのような点について気をつけてコミュニケーションをとるべきかを解説しています。

 

この後編は、2018年の週刊医学界新聞 人気記事ランキング 第1位 に輝きました。

2018年『週刊医学界新聞』人気記事ベスト20

医療者以外の多数の方にも読んでもらったようで、大きな反響をいただいて、とても嬉しかったです。

まだ読まれていない方は、ぜひこの機会にお読みいただければと思います。どうぞ宜しくお願い致します。

 

<バズフィード寄稿>ノーベル賞受賞の免疫療法はどんな治療か?

 

昨年10月に機会をいただきまして、バズフィードの方に記事を寄稿しました。

 

ちょうど、この時期に本庶先生が、がんの免疫療法でノーベル賞を受賞しました。これは本当にすごい発見でした。

しかし、今回ノーベル賞を受賞したことで、免疫療法が魔法の治療のようにとりだたされて、一人歩きを始めているように感じました。この治療の効果はもちろん素晴らしいのですが、効果が出るがんは限られていますし、この治療には強い副作用も伴うことがあります。そのあたりについて、詳しく解説をさせてもらいました。

また、今回のノーベル賞受賞によって、全く治療効果の証明されていないイカサマ免疫療法も、同じ免疫療法のように装って、売られている事実がありました。その辺りも含めて注意喚起もさせてもらいました。

ぜひ、記事の方をお読みいただけたらと思います。

バズフィード寄稿記事 

ノーベル賞受賞の免疫療法はどんな治療か? その効果・副作用のメカニズム

 

本年もよろしくお願いいたします!

皆さん、新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。

昨年3月に開始したこのブログも、おかげさまでたくさんの方に読んでもらうことができまして、総ページビューが30万を超えました。皆さんのご支援に誠に感謝いたします。今年も頑張って書いていきたいと思っています。

まず、最初に謝らないといけないのは、昨年10月以降は新記事を載せることができませんで、休止してしまったのではと、ご心配をおかけしてしまいました。

何も活動をしていなかったわけではないのですが、徐々にこのブログが認知されたことで、他の情報媒体に記事を提供する機会が増えまして、研究業務の合間に、記事の提供をするだけで、手一杯になっていたことが大きな理由でした。

昨年に他媒体に投稿した記事についても、こちらでご報告すればよかったのですが、本業の研究も大変に忙しい時期であったこともあり、手が回らない状態となっておりました。

昨年に他媒体に提供した記事については、この後の記事でご紹介していきます。ぜひ、お読みいただけたらと思います。

 

今年は、定期的にブログに新記事を載せるとともに、他媒体への投稿記事についても、こちらでちゃんと随時報告するようにしたいと思っています。どうぞ、引き続きおつきあいしていただけたらと思います。

がん患者やその家族の不安が少しでも減るように、その助けになるような情報提供をしていきたいと思っています。本年もよろしくお願いいたします!

がんの標準治療を受けない危険性

本当に、本当に、皆さんに知って欲しいことがあって、今回は強い思いを持って、この記事を書きます。是非読んでいただければと思います。

ネットや書籍には、がん治療に関した大量の情報があふれています。本当に大量です。そしてその情報の中には、病院で行われている標準治療(科学的証拠に基づく最善の治療)を否定して、根拠の明確でない治療を勧めるものが多くあります。

「手術は受けるべきではない」「抗がん剤は患者を殺す」などといって、その代わりに代替療法(効果が証明されていない治療)を勧めます。癌に効くという食品や、食事方法やら、体温を上げるやら、癌の専門家からみれば呆れるものばかりです。

これはとてつもなく怖いことで、ネットに広がる情報を信じて、標準治療を放棄してしまい、代替療法を中心に治療を進めてしまい、急激にがんが進行してしまうケースが実際に多く見られています。情報は人の命を簡単に奪います。

今回は、実際に標準治療を選択せずに、代替療法を選択してしまった場合に、どのぐらいのデメリットが生じてしまうのか、実際の患者さんのデータをもとに検証した2つの研究論文を紹介して、その危険性を解説したいと思います。

代替療法のみを選ぶ危険性

最初に紹介するのはJNCIという権威ある雑誌に載った論文です。この論文では、アメリカで標準治療を行わずに代替療法のみを行った患者281例の検討を行っています。患者は転移を伴わない状態で発見された患者で、乳がん・前立腺がん・肺がん・大腸がんのいづれかと診断された人です。まず、全患者の治療後の経過を、通常の標準治療を行った患者と比較したのが下の図です。

このグラフの見方ですが、縦軸が生存されている患者さんの割合を示しています。それに対して横軸は月数です。最初の0ヶ月の診断時点では100%の患者さんが生存されています。月が経つにつれて徐々に線が下に落ちているのは、この時点で亡くなられた人がいることを意味しています。

二つの治療を受けた場合の差は歴然としています。標準治療を受けた場合には6年(72ヶ月)経った時点で、約75%の患者さんが生存されています。それに対して、代替療法のみを選んだ患者さんは50%の方しか生存していません。

さらにがん種別のデータもお示しします。

左が肺がん患者で、右が大腸がんの患者のデータです。大腸がんではその差はさらに大きなものとなっていて、6年の時点で標準治療群では80%と、ほとんどの人が生存されているのに対して、代替療法のみを選んだ患者さんは約35%の方しか生存されておらず、多くの方が6年の間に亡くなられてしまったことがわかります。

この論文は、がん患者が標準治療を行わない選択をすると、長期生存率が明らかに低くなってしまう事実を明らかにしています。

「はたらく細胞」で癌を勉強しましょう

はたらく細胞という漫画をご存知でしょうか?体の中にある血球細胞を擬人化するという斬新な漫画で、人の体の中で血球細胞がどのように働いて健康を維持しているのかや、病気にどのように対処しているのかを知ることができます。血球細胞は本当にたくさんの種類があって、生物の教科書では何だかわからなくなることが多いのですが、漫画で分かりやすく学ぶことができます。

最近にアニメ化されて放送されていて、とても人気となっているようです。第7回が、「がん細胞」がテーマでした。

「はたらく細胞」公式ツイッターより

正常細胞に化けた癌細胞が免疫細胞に見つかり、激しい戦いの末に排除されるというストーリーでした。癌の初期発生を防ぐプロセスを紹介した話です。ぜひ、まだご覧になっていない方は見て下さい。Abema TVで見られるようです。

この話を見られ方は癌について詳しくなったのではと思います。この機会に癌のことをもっと知ってもらいたいと思いましたので、ブログでもアニメの解説をしたいと思います。ツイッターでもいくつか解説しましたが、その追加版になります。

癌細胞は正常細胞のコピーミスで起こる

今回のアニメにも描かれていましたが、癌細胞はそもそもどこから発生するのかといえば、それは体の中の正常細胞です。体内にある正常細胞の一部は常に分裂を繰り返しながら、若い細胞が生まれて、古い細胞は排除されて、健康な環境を保っています。例えば皮膚を見てください。見た目には変わっていないように見える皮膚も、実は毎日たくさんの細胞が新たに生まれて、古い細胞はアカとして排除されています。この新しい細胞を作る細胞分裂の際にミスが起こり遺伝子変異が入ってしまうことが稀にあり、それで発生するのが癌細胞です。

コピーミスが起こる割合はどのくらい?

この細胞分裂の際の遺伝子複製の正確さは驚異的で100億個の塩基あたり1個の頻度でしか起こらないとされています。これは驚異的な正確さで、宝くじの1等をあてるよりも、とんでもなく少ない頻度です。しかし、体の中にある細胞の数が約30兆個もあるので、1日に数千個の頻度で複製エラーを抱える細胞ができるのではと言われています。

遺伝子異常が蓄積したのが癌細胞

アニメでは一度のコピーエラーですぐにがん細胞ができるように描かれていましたが、正確には何百も蓄積されることで起こります。最初の数個の遺伝子異常くらいでは大きく増殖したりはしないのですが、遺伝子異常がたくさん蓄積されることで、初めて癌細胞といわれるようなものになります。そのため、癌ができるには数年~数十年かかると考えられています。

癌細胞になると異常に増殖して、周辺の正常組織を壊したり、浸潤転移して他臓器で増殖したりします。これは漫画にも描かれていました。また、癌細胞はたくさんの栄養を消費するため、体の栄養を奪っていきます。何もしていないのに急激に5~10kgも体重減少したときには、医師は癌を疑って精密検査を行ったりします。痩せたら必ず癌ということではないですが、体重減少は癌を疑う症状の一つです。初期の癌や、癌の大きさが小さい場合には体重が減ることは少ないです。

癌細胞はどのように排除されるのか?

今回のアニメにも出てきたように、異常が起こった細胞は免疫細胞によって排除されます。体の免疫細胞は常に体内の細胞を監視していて、コピーミスでおかしくなったものや、ウイルス感染しておかしくなった細胞などを見つけると、排除しようとします。その際には、あらゆる免疫細胞が動員されます。癌の排除には今回のアニメで出てきたように、マクロファージ、NK細胞、killer T細胞、helper T細胞、B細胞、好中球などが総動員されます。今回のアニメで紹介されていたような騒動が起こることになります。このような騒動は、毎日何百回も体内で起こっていると考えられています。

他の排除機構

アニメでは免疫細胞による排除だけ取り上げられていました。実は、排除機構は他にもたくさんあります。その中で重要なものは、細胞に組み込まれた自爆システムです。正常細胞には「癌抑制遺伝子」という遺伝子があって、異常な増殖をしたり、おかしな遺伝子変異が起こると自動検知して、細胞を自爆させるスイッチが作動して、アポトーシスという破裂してなくなる現象が起こります。これも大事な制御機構で、細胞が癌化しそうになると作動して増えるのを防ぎます。

癌細胞はどのように排除機構から逃れるのか?

そのように高度に制御されている中で、どうして癌はできてしまうのでしょうか?いくつかわかっている機構を解説します。

1、異常細胞が増えすぎて対処不能

高齢者になると細胞のコピーエラーが増加することが知られています。細胞が年をとるためです。それによって、癌細胞の元がたくさんできてしまい、免疫細胞が対処しきれなくなります。また、タバコも異常細胞を増やす原因です。タバコには発癌物質が含まれていて、これらは正常細胞に遺伝子変異を起こします。こうして異常な細胞を人工的に多量に作ることになってしまいます。これがタバコが癌を高頻度に起こす原因となっています。

2、免疫細胞の機能が低下

これも高齢者に癌が増える大きな要因になっています。高齢になるにつれて、アニメに出てきたような免疫細胞の機能が弱まります。そのためにがん細胞を排除しきれなくなり、大きな癌ができてしまいます。

3、癌細胞が免疫細胞から逃れる機能を獲得

癌細胞の表面に免疫細胞からの攻撃を受けないようにするシグナルが出て回避することが知られています。例えると、癌細胞が免疫細胞に賄賂を渡して見逃してもらうようなものです。このシグナルがたくさん出ているがん細胞は免疫細胞の攻撃を受けません。免疫チェックポイント阻害剤と言われる薬剤は、この賄賂を阻害して、免疫細胞の攻撃を再開させるものです。最近、各種癌でこの薬剤は強い効果を示しています。

4、自爆シグナルが停止

正常細胞が持つ自爆シグナルを癌細胞がわざと切ってしまうという仕組みもあります。がん抑制遺伝子であるp53などに遺伝子変異が入ることで、自爆シグナルが作動しなくなり、細胞がおかしくなっても自爆しなくなってしまいます。この機序は発がんにはとても大事なプロセスで、ほとんどの癌ではこの自爆シグナル停止が起こっていることが知られています。

ちょっと注意点

最後に、今回のアニメでは、ちょっと少し正確性を欠いていたかなという表現もいくつかありましたので、少し触れておきます。

1、笑いの効果でNK細胞が活性化されるという表現がありました。これはたしかにそのような基礎的なデータは出ています。しかし、一時的な笑いが恒常的に発がん抑制をするほどの効果があるのかは、まだ高いレベルの研究データはなく、効果は良くわかっていません。まあ、笑うことは悪いことではもちろんないですので、たくさん笑ってもらうに越したことはありません。しかし、それで確実に発がんを防げるかの証拠はまだ出ていません。

2、赤血球が免疫細胞達をがん細胞があるところに呼んでいましたが、実際の赤血球には免疫細胞を誘導するような機能はありません。

3、免疫細胞が発がんを予防するのはたしかです。そのため食品/食事療法/生活行動などで免疫力を上げて、癌を防ぐとうたう商売が横行しています。我々の日常レベルの行動で免疫機能を恒常的に大きく変化させて、発がんを劇的に防げることは確認されていません。この免疫力に絡んだ怪しい商売も多数ありますのでご注意ください。

はたらく細胞はオススメです

いろいろと細かな間違いも指摘しましたが、全体の内容はとても正確だったと思います。本当にこのアニメは教育的で素晴らしいと思います。一般の方が、癌を詳しく知る良い機会になるし、病気を科学的に捉えるくせもできると思います。病気の表面だけ知ろうとせずに、詳しいメカニズムに目を向けることは大事で、それは医療情報デマに騙されることも減らせるし、医師患者間のコミュニケーションレベルも上げられると思います。ぜひ、漫画やアニメを見ていただき、人体の仕組みについて楽しみながら知っていただければと思います。

原作の漫画 「はたらく細胞」もぜひご覧ください。


第2巻でがん細胞編があります。他の病気の章もとても勉強になります。ぜひご覧になってみて下さい。