幡野広志さんのインタビュー記事に感じたこと

バズフィードに掲載された写真家 幡野広志さんへのインタビュー記事がとても印象的で、たくさんのことを考えさせられました。このブログでも紹介させてもらい、私が思ったことを書かせてもらいます。

 

元記事はこちらになります。

がんになったカメラマンが息子に残したいもの 大事な人が少しでも生きやすい世の中になるように

写真家 幡野さんは34歳という若さで末期ガンという診断を受けてしまい、崖っぷちに突然落とされてしまいます。彼には1歳半の息子さんがいました。彼は診断された時のことをこうふりかえっています。

痛みに耐えきれなくなった11月、ようやく総合病院でMRIを撮り、「背骨に腫瘍があります」と告げられた。一人で結果を聞いた幡野さんに、主治医は「背骨に転移しているということは相当末期状態です。場合によっては3ヶ月から半年ぐらいですよ」と突きつけた。

当時1歳半になったばかりの長男や妻のことを思い、一晩泣いた。

ちょうど、私にも同じくらいの年の子供がいますので、その時の思いは痛いほどわかります。彼のブログには子供との写真を載せておられますが、その写真に込められた思いを考えると涙をせずにはいられません。

 

幡野さんがすごいなと思うのは、その崖っぷちから猛烈な情報発信を開始されたことです。しかも、彼はがん患者を悩ませる嘘や、ひどい誹謗中傷に真っ向から立ち向かっていきます。記事からいくつか引用して紹介します。

科学的根拠のない食事療法を勧めてくる読者に「迷惑です」と答え、「善意で勧める人に迷惑と言うのは失礼だ」と絡む人にも丁寧に答える。

「善意を迷惑と言うのは難しいです。 友人や親族からのありがた迷惑を言えずに苦しんでいる方が多いのです。 だから発言力がある人間が矢面に立ってでも言うことに意味があります。 全ての善意が迷惑なのではありません、勧誘や紹介が時として破滅に向かわせます。 はっきり言います、迷惑なんです」

 

最近では菜食主義者の人が、狩猟をしていた幡野さんががんになったことを「自業自得」「因果応報」と中傷するのに対してはこう冷静に打ち返した。

「自分と主義が違うからと言ってガンになった人や苦しむ人に言い放つ言葉ではない。宗教の勧誘を断ると、全く同じ捨て台詞を放たれます。 日本人の2人に1人はガンになります、非常にメジャーな病気です」

「インチキ医療や不快な言葉を他の人もたくさん受けているのですが、みんな言い返せないでいるんです。だから毅然とした態度で言い返す見本を見せたい。無視は簡単ですが、それではみんなに見えません。これが迷惑な行為なのだと“善意の人”に気づかせるためにも書いているんです」

 

代替療法や健康食品、食事療法も未だによく勧められる。いずれもがんに効くという科学的な根拠はない。

「そういうのを勧める人は患者が亡くなった後に『私が勧めた治療を拒否したからよ』と家族を責めて、苦しめることさえある。ひどかったのは、『ブログやSNSでうちの商品のことを書いてくれたら8万円支払います』と言ってきた業者です。他の人の闘病ブログにその商品が出てきてとんでもない奴だと思いましたが、考えてみればがんになると収入が断たれてしまう。この人も仕方なくやっているのではないかと悲しくなりました」

これらの発信は赤裸々にがん患者がおかれる状況をリアルに描写しています。多くのがん患者さんががんであることを公表すると、怪しい人達が大挙してやってきます。根拠のない食品などをたくさん勧めてきます。それを断ると、その人を誹謗中傷したり、言葉の暴力によって精神的な圧迫をかけたりします。こういうことをするのは商売目的の本当にひどい人もいるし、友人や親戚でそれらの治療を信じてしまい、親切心で勧めてくる人もいます。

それらに立ち向かうことは本当に簡単ではありません。ただでさえ突然の病気で精神的にまいっているのに、さらに面倒を起こされて、精神的に追い詰められます。効果がないとわかっていても、面倒にならないように、仕方なくそれらを買って、付き合っている方もいます。本当に大きな問題です。

また、イカサマ治療を拒否する人を守ってあげられる環境がないことも大きな問題だと思います。本来ならばそれらを勧められた時に、「がんの権威の先生がそれは効きませんとネットに書いてあるよ」とか言って、自分の理論を守ってくれるものを示せれば良いのですが、むしろがんの権威に見える先生がイカサマ治療を勧めているページの方が、世の中には多い現状ですので、正論を言っている人を守ってあげられていません。医療者側の人が患者さんを守ってあげられるような情報発信をもっとしていかないといけないと感じます。

 

もう一つバズフィードの記事を見ていてがっかりしたのが、医療者の言葉に振り回される幡野さんの状況です。

痛みに耐えきれなくなった11月、ようやく総合病院でMRIを撮り、「背骨に腫瘍があります」と告げられた。一人で結果を聞いた幡野さんに、主治医は「背骨に転移しているということは相当末期状態です。場合によっては3ヶ月から半年ぐらいですよ」と突きつけた。

病理組織の確定診断もしていない段階で、しかも腫瘍専門の医師でもないのに、余命3ヶ月から半年くらいですよという言葉は、まさに言葉の暴力です。前後にいろいろな言葉があったとは思いますが、患者が最も関心がある部分はもっと慎重に検討してから話すべきだと思います。

 

また、幡野さんが治療について医療者に聞いたことへの対応をこう振り返っています。

「看護師さんは全員治療をしないと言うし、先日会った人は自殺するとまで言う。医師では腫瘍内科医で緩和ケア医の西智弘さん一人だけが、『子供が小さいから少しでも長く一緒に過ごすために治療する』と言っていました。『標準治療をやらない』という医師は代替療法を試すと言い、主治医は『私は患者じゃないので答えられない』と言う。だから僕は正直なところ、標準治療には疑問をちょっと持っているのです」

どのような方に聞いたのかは分かりませんが、これらの対応には疑問を感じます。たしかに標準治療を行うことには辛いことも伴いますが、ちゃんと一定の効果を望めます。何より「多発性骨髄腫」などの血液腫瘍はがんの分野の中でも研究進展が著しく速い分野ですので、数年経てば劇的に効く薬が出てきて、全く別の状況になる可能性がある腫瘍です。私にしてみれば治療を諦めるという選択肢を勧めるのは信じがたいです。

それぞれの聞かれた方がどのような状況で、何をどう聞かれたか、幡野さんが答えをどう捉えられて、こういう発言になっているかは分かりませんので、一方的に批判することはよろしくないと思います。しかし、医療者であればもっと慎重な発言をしてもらいたかったなと思います。結果的に患者さんを惑わせる形になってしまっています。

「多発性骨髄腫」はとても専門性の高い腫瘍ですので、ほとんどの医師の方も、看護師の方も正直なところ、血液内科の腫瘍を専門に治療する医師でないと、正確な治療の現状を知らないと思います。最新研究の内容なんて知る由もないと思います。だから、突然質問されたことに答えることはとても難しかったと推察されます。でも、どのような治療をするかは人生に関わる選択ですので、とりあえずの答えを言うのではなくて、「知りません。専門の医師に相談すべきです」で良かったと思います。がんと言っている疾患も、全く別な数千の疾患の集まりですので、専門外の最新治療を知っていられるはずがないです。それは恥ずかしいことでも何でもないです。

このブログでは実際の患者が医療者の言動にも振り回されているという現実をリアルに示していると思いました。

 

幡野さんは肉体的にも精神的にも辛い立場であるのに、勇気をもって情報発信をしていて、本当に敬意を表したいです。その勇気ある行動はイカサマがん治療に悩む患者に、たくさんの勇気を与えているのではと思います。また、その情報発信は医療者側に足りないことも明確にしてくれています。日本のがん治療はまだまだ問題だらけです。それを変えられるのは医療者側だけでなく、患者側も含めた一人一人の勇気ある行動によって起こっていくのではと思っています。勇気を持って行動していかないといけないなと思います。

どのがん治療が本当に効果があるのかを厳正に審査してくれている機関があることをご存知ですか?

がん患者さんが良く言われる悩みの一つは、「がん治療に関した情報があまりに多すぎて、どれを選ぶべきか分かりません。誰か効果や副作用を調べて、どの治療が良いかを報告してくれている機関とかはないのでしょうか?」などと聞かれます。実は、それにほぼ近いことをしてくれている機関が存在します。その機関とは日本政府(厚生省)です。

厚生省はすべての治療を審査している

厚生省は、厚生省管轄の独立行政法人と一緒に、「保険適応の審査」というものを行っています。この審査では、がん治療に使われる医薬品などの効果と副作用を厳正に審査して、国民が受けるべき良い治療かの結論をだしています。この結果は国民に向けての形では公表されていませんが、その治療が保険適応されているかどうかを見れば、この審査を通った治療かはすぐにわかります。一般的に「標準治療」と言われる病院で行われている保険適応されたがん治療は、この厳正な審査を突破した選ばれしエリート治療です。

保険診療は審査を突破した治療のみが行われている

皆さんが病院に行って何気なく受ける治療ですが、それらは保険適応がされていて、治療費の3割程度の負担をすれば良い形になっていることをご存知かと思います。一般の人はあまりしらないのですが、これらの治療の全てが厳正な審査を過去に受けて、政府にお墨付きを受けています。審査を突破しないと保険適応になりません。これはがんに限らず全ての治療が審査を受けています。そのため、病院で保険適応されて行われている治療というのは間違いのない治療であるということになります。

なぜ、政府は審査をしているのか?

政府は国民の健康増進のために、多くの国民に適正な治療を安価に受けてもらうという方針で政策を進めています。そのため、政府としては効果のない治療が病院に入り込むことを厳しくコントロールしています。また、有効な治療だけに治療費の大部分を税金で補填することをして、国民の医療費負担を減らしています。この有効な治療を選ぶ過程が「保険適応の審査」です。

保険適応になるために必要な条件とは何か?

では、どんな治療だと保険適応されるのでしょうか?世の中の病気も治療も多岐に渡りますので、ここではがん治療に関しての場合のみに絞って解説します。新薬が保険適応になるためには、その薬剤が対象疾患を持つどんな患者に対しても、確実な効果があること(生存率もしくは再発抑制率の向上)、重篤な副作用がほとんど見られないことが求められます。また、効果が既存の治療と同等であっても、副作用が著しく少ない場合にも認可されます。これらの治療効果・副作用に関しては、誤差ではない確実な結果を求められますので、基本的には数百人規模の高度に管理された臨床試験データを求められます。少人数での検討であったり、プラセボ効果などが否定できないデザインだと却下されてしまいます。また、とても大事なことですが、現在行われている治療よりも劣る成績を出す治療は認可されません。政府は常に最高に効く治療にお金を払いたいので、効果が劣る治療を認可することは基本的にありません。そのため、新たに承認された治療というのは現時点で最も効果がある治療ということの証明でもあります。

副作用が少ないことも承認には必要

一般の人が保険適応されている治療に対して勘違いしていることがあります。それは、「病院で受ける標準治療は効果はあるが、副作用が多い」というものがあります。これは勘違いです。なぜならば、保険適応を受けるためには副作用が少ないことも求められるからです。すごく効果がある治療があったとしても、看過できない副作用が多数みられるようですと、その治療は承認されません。保険適応されているということは、副作用も少ない治療だと確認されているのです。ただ、勘違いしてもらいたくないのは、副作用が全くないことを期待されてはいません。効果があるがん治療というのは副作用がある程度の割合でどうしても伴うものですので、それを理由に承認されないということはありません。この辺りは以前のブログに詳しく解説していますので、参照してください。

自由診療は審査に通っていない治療

世間には、たくさんの保険適応されていない治療や食品が、がんに効くと言って宣伝されています。一部は医師によって行われているものもあります。一般的に自由診療と呼ばれるものです。これらは保険適応されていません。つまり、厳正な政府の審査を突破できていない治療です。ほとんどのものは審査の舞台にすら立てないレベルのものばかりです。良く宣伝文句には、未来の新しい治療であって、まだ保険適応されていないですとか書かれていますが、ほとんどの場合は嘘です。実際には、ほとんどのイカサマ治療がすでに何らかの検証がなされていて、効果が証明されずに、保険審査にも到達できなかったものが多いです。

製薬会社が行っている臨床研究とは

保険適応されていない薬剤が実際の患者さんに投与される例として、もう一つ説明したいのが臨床研究(治験)というものです。これは、まだ保険適応されていない新薬を、製薬会社が保険適応の審査を通すために調べているものです。まさにこのデータが保険適応の審査で検討されることになります。もちろん、この中には将来有望なお薬が含まれていることもあります。しかし、この臨床研究から保険適応を得られる確率はとても低く、この段階の薬剤は確実な効果を期待できるものではありません。一般的にこのタイプの臨床試験では、治療費は製薬会社が払いますので、高額の治療費を払う必要はありません。最近では、自費診療なのに、臨床研究を装っているものもあり、そちらにも注意が必要です。その場合には高額な治療費を請求しますので、それが見極める方法の一つになります。

まとめ

日本では、厚生省ががん治療に関しての厳正な審査を行っています。病院で行われる標準治療は、その審査を通った確実な効果があって、副作用が少ないことを確認された治療です。皆さん自身が必死になって調べないと正しいがん治療は選べないのではなくて、ちゃんと厳正な審査を行ってすでに選ばれていることを知ってください。逆に、世間に出回る保険適応されない自由診療や、食品などは審査を通っていないものです。「保険適応」されているかどうかという視点で見るだけで、大きな間違いをせずに済みますので、その点を良く知っていただければと思います。

 

根拠のない「がん情報」をネットでシェアする方にお伝えしたいこと

インターネット上には、ある特定の食品・光・音などが「がん」治療に効果があるという書き込みが山ほど見つかります。商売目的の悪質なページもありますが、それとは別に一般の人が気楽にそれらをtwitterやfacebookでシェアして、広がっているのも見かけます。おそらくは、それほどの悪気はなく、がん患者のためや、一般の人のがん予防のためになるのではと、投稿やシェアをしているのかもしれません。健康情報を発信している延長として行っているかもしれません。はっきりと言いたいのは、デマ情報は何の役にも立ちません。むしろ、患者やその家族を傷つけるだけですので、本当に止めてもらいたいです。

その情報は本当に根拠がありますか?

これはがんに効くと書かれている方は、良く考えてみてください。それは100%根拠がありますか?何百人という患者で試して、絶対の効果を試したものですか?あなたはその食品だけを食べて、がんが治った人を本当に見ましたか?広げている方は軽い気持ちで行っているのかもしれないです。しかし、その気安く書いた情報に、患者も家族も大いに惑わされて、時には大きな混乱を受けることになります。

ネットで広がるがん治療情報は嘘ばかり

ネットには本当に嘘ばかりが広がっています。がんを治療できる周波数の音が聞ける動画とかが大きく広まっているのを見て、怒りを通り越して、悔しくて泣けてきました。真面目にやっている我々をバカにしています。明確に書いておきますが、がん治療に明確な効果が証明されている食品はほとんど存在していません(※注釈参照)。また、一般生活に存在する光や音などで、治療効果があるものもありません。いろいろなデータを出して、それっぽく見せていますが、予防に効果があって治療効果は証明されていなかったり(予防と治療の違いについては以前のブログを参照してください)、細胞実験レベルのデータだったり、数十名に適当に試しただけでしっかりとした証明がされていなかったり、特定の医師が効くと主張しているだけだったりします。

がん治療効果があると言える証拠とは何か?

皆さんはどのようなデータがあればがんに効くと言えると思いますか?その証明には、数百人規模の患者を集めて、治療群と偽薬(見た目が一緒だが有効成分のない薬)群に分けて、しかも治療を実施している医師にも、受けている患者にも、どちらが投与されているかわからないようにして(二重盲検と言います)、診断・治療・副作用などが正しく客観的に評価されているかを見る第3者委員会も設けて、そこで明確に生存期間が延長するかを証明しなくてはいけません。これほどの高いレベルの証明が必要です。あなたがシェアしようとしている情報にはその証明がありますか?

なぜ、嘘の情報は患者や家族を傷つけるのか?

情報をシェアされている方の多くは、それほど悪気はなく、がん患者を傷つけているとも感じていません。人によっては、「真実かどうかは見極めるのは自分の責任だからいいだろう」とも言います。それはあまりに患者の置かれている心境を理解していません。がん患者もその家族も置かれている立場や心境が全然違うのです。例えば、何かの食品ががんに効くという書き込みがあったとします。がん患者や家族はそれらの情報を見たときに、その食品を一生懸命とらなければという衝動にかられて、効きもしない食べ物に、時間と労力とお金を割かれてしまいます。がん患者は、治療で食欲が落ちたりして大変なのに、さらに好きな食べ物を食べれずに、大変なストレスを感じたりします。

がん患者は嘘とわかっていても試さざるを得なくなる

患者さんによっては、どうせほとんど効かないのではと、薄々分かっていても、試さないわけにはいかなくなってしまいます。だって、みんな生きたいのですから、やれるだけのことをやろうと思うわけです。だから、一般の人にはどうでも良いような怪しい書き込みでも、がん患者は完全には無視できなくなって、苦しめられることになるのです。

精神的にもダメージを受ける

がん患者さんは自分が病気になったこと自体にもショックを受けています。ほとんどのがんは患者に何か原因があって、がんになるわけではありません。本当に偶然です。しかし、すでにがんが進行している人は、病気になってから今までの間に、書かれていた食品を食べてこなかったために、がんになったのではないかと思い、そのことを後悔します。また逆に、これを食べたからがんになったという嘘のせいで、自分を責めたりもします。普段なら惑わされないような嘘の情報にも、追い込まれているので、精神的なダメージを受けることになります。

がん治療に関する情報はとても重大なものです

いろいろな考え方を持つことは良いことです。西洋医学が全てではないし、いろいろな考え方や価値観があっても全く問題はないです。いろいろなものを健康に良いと思い、使うことを否定するつもりは全くありませんただ、がんに本当に効くのかどうかだけは不確かではダメです。がん患者のおかれている気持ちや苦しみを、良く考えてあげてください。

真剣勝負の邪魔をしないであげてください

がん患者は生命をかけた戦いをしています。その戦いは楽なものではありません。急に病気になり、常に時間との戦いになります。間違いの許されない戦いです。判断を間違えれば人生を失ってしまいます。子供がいる人はその子の成長を見ることができなくなります。だからこそ、医師も研究者も必死になって、絶対に間違いがないように、常に世界の中で最も効く可能性が高い治療が何なのかを調べ、それを受けられるように勉強をし、技術をつけて、全身全霊で患者に向き合います。もし、間違った情報を信じて、全く効果がなければ、その人は生命を失い、大変な後悔の中で亡くなっていくことになります。残された家族も大変な苦しみの中で、その後の人生を送らないといけなくなります。あなたの情報はそんな真剣な人達に向けられる本気で調べた情報なのでしょうか?

最後にお伝えしたいこと

私も多くの患者に出会ってきましたし、悔しい戦いもたくさんしてきました。難しい病気だからこそ、絶対に間違いは許されないからこそ、患者も医療者も悩み苦しみます。常に真剣勝負です。生命をかけた戦いです。どうか、患者の思いを良く考えてあげて、それらの真剣勝負の邪魔をしないであげてください。安易な気持ちでちょっと書いた情報でも、その情報に傷つけられているがん患者がいることを考えてあげてください。がんに関する情報発信には慎重に臨んでもらいたいです。

 

<注釈>

2018年4月に大腸ガン再発予防に対して、ナッツ類が効果があることを示されました。そのため、大腸ガンにおいてのみ、ナッツ類は治療を助ける働きがある可能性があります。それ以外に高いレベルの治療効果が確認されている食品はありません。

「この治療は全てのがんに効きます」の嘘

日本で氾濫しているイカサマがん治療(食品)の宣伝で良く見る文言があります。それは「この治療(食品)は全てのがんに効きます」という言葉です。一般の人がこの言葉を見たときには、「全てのがんに効くなんてすごい、私にもきっと効くはず」と感じるかもしれません。それに対して、医療者がこの文言を見た場合にはすぐに怪しいと疑います。なぜならば、そんな治療は存在しないからです。

手術・放射線・化学療法でも全てのがんには効かない

手術・放射線・化学療法・分子標的薬は、世界で最も多くの種類のがんに効果があって、頻繁に使われている治療方法です。

しかし、これらでさえも全てのがんは効きません。

例えば、放射線治療は前立腺癌などに良く効きますが、胃がんにはあまり効きません。抗がん剤も同様に、一つのお薬が全てのがんに効くということはありません。さらに、分子標的薬にいたっては、さらに絞られた特定の数種類にしか効かないものが多く、対象はより狭まる特徴があります。

最新のどんな治療でも、どんなに有名な治療でも、全てのがんに効くものは存在しません。

「がん」は多種類の別の病気の集まり

そもそも「がん」と呼んでいる病気は、たくさんの種類に分かれます。

まず、臓器別で20種類以上、臓器内で約個−数十種類程度に分かれ、さらにステージと呼ばれる進行具合で4段階程度に分かれます。例えば、肺がんー肺腺癌ーステージ4のようになります。単純にかけても、20 x 10 x 4=800種類にもなります。最近では、さらに遺伝子異常で細分化されるようになり、さらにステージも4つよりもっと細かくなっているので、数千にも分かれます。

「がん」と総じて言っている病気には、数千の別の病気が含まれています。

それぞれのがんで治療方法は大きく異なる

とっても大事なことは、この数千のがんで治療方法は大きく異なります。

ほとんど同じ治療をしていると勘違いしている人もいますが、実はかなり異なります。

手術はどのような進行段階では有効かや、放射線治療をどう行うか、どのぐらいの量を当てるか、化学療法はどのお薬を使って、どの程度をどのぐらいの期間行うかで、大きく異なります。

そのため、がんと呼んでいる病気に対した治療は、数千の方法があることになります。シンプルなようでとても複雑な世界です。それだけ違う病気ということです。

医師も把握しきれないがん治療の多様性

実はなんらかのがんの専門の医師であっても、自分の専門外のがん治療の細部はほとんど知りません。

例えば、私は脳腫瘍が専門ですので、脳腫瘍全般の治療方法は熟知していますが、肺がんとなるとほとんど知りません。脳腫瘍だけでもすでに数百になるので、それらを全てマスターするだけでも、5−6年もかかる作業ですので、他の腫瘍もマスターするのは不可能なのです。

それだけ、がんと言っている病気は別の病気なんです。

薬物療法を専門とする腫瘍内科や、緩和医療を専門にする医師などは、自分の専門領域のなかで、ほとんどの腫瘍の治療を勉強されておられ、多種類のがんを相手にされています。手術適応や診断などに関しては専門家との連携が必ず必要になります。

免疫療法も全てのがんに効果があるわけではない

免疫療法に関した宣伝文には「全てのがんに効く」の文言を良く見ます。免疫を賦活化すると謳う食品などでも、良くこの文言を見かけます。

免疫は全ての臓器にいくので、免疫療法なら全てに大丈夫という説明がされていることがあります。

この説明も正しくありません。

免疫細胞の各臓器への入っていきやすさには違いがあります。例えば、皮膚には免疫細胞が豊富に移動しますが、脳にはあまり移行しません。

また、腫瘍細胞の種類によって、免疫細胞に食べられやすさが変わります。例えば、免疫療法で最も効く免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボなど)も、最近の研究では皮膚ガンには良く効きますが、脳腫瘍には良く効かないなどのことがわかってきています。やはり、免疫療法も全てのがんに効く治療ではありません。

「全てのがんに効く」は危険ワード

「この治療(食品)は全てのがんに効きます」という言葉には要注意です。実際にそんな治療は存在していませんし、「がん」の種類や治療の複雑さを考えれば、そんな短絡的な結論はありえません。そのような言葉に騙されないように注意をしてください。

がんの予防と治療は別のもの -怪しい食品に騙されないために知っておくべきこと-

がんになるのを防ぐ「予防」と、がんを治す「治療」を混同して考えている人が多くいます。この二つはとても似ているようにみえますが、全く別のものです。予防に効果があるからといって、治療に効果があるとは限りません。がん予防に効果があるという話から、治療にも効果があるという話のトリックで宣伝している食品などに、騙されないように注意をしましょう。

禁煙でがんを治療できる?

例えば、たばこはがん発症に強い影響があります。禁煙はがん予防に絶大な効果があります。しかし、がんになったあとにたばこをやめても、がんは消えません。もちろん新しい他の病気を予防することはできるので禁煙は大事です。しかし、直接的ながん治療にはなりません。予防と治療というものは、似ているようで全く違うものです。

発がんとは青少年がヤクザになる過程

がんは、もともとは正常な細胞に、遺伝子異常が起こり、何年もかけて変化していき、さらに異常が加わることで、最終的ながんになるという経過をたどります。例えると、純粋な青少年が徐々にグレていって、やがて不良になり、さらに何年もかけて、最終的にヤクザになるという過程です。

予防に必要な対処とは?

この青少年が徐々に不良になってしまい、やがてやくざになってしまう過程を防ぐのが「がん予防」です。そのため、必要な手段は家庭環境を整えたり、教育したり、相談にのったりすることになります。それが禁煙だったり、ピロリ菌の除菌だったり、肥満の予防だったりします。遺伝子変異が入ってしまう要因を、長期間にわたって減らすという作業です。これらは短期的な作業というよりは、長期的な健康維持に近いものです。

治療には強力な手段が必要

それに対して、他人に悪行の限りをつくしているヤクザに対しての対処が「がん治療」です。警察が悪いことをしているヤクザを逮捕して、組を潰そうとする作業にあたります。この方法は、さきほどの青少年を不良にしないという方法とは全然違うことは想像できると思います。のんびりと相談にのって、何年もかけて厚生しようというのでは、あっという間に街をヤクザに占拠されてしまいます。がん細胞はものすごい速さで増殖するわけですから、短期的に殺すための強力な治療が必要になります。それが抗がん剤や、放射線治療、手術だったりするわけです。

健康に良い食品ではがんを治せません

ここが今回の本題です。ここまで説明した通り、がん予防のための食品や食事などではがんは治療できません。質制限・キノコ・ビタミン剤などは、健康には良いかもしれません。肥満を防ぐことや、バランスよく食べることで一定のがん予防にはなるかもしれません。しかし、これらだけでがん細胞を殺すことはできません。がん細胞は正常細胞よりも強力で死ににくい細胞です。こんな健康に良いレベルでは全くお話になりません。そもそもそれらの健康に良いというレベルの食品は長期的にみて、効果を求めるものであって、短期的に細胞を殺すような作用はありません。

明確な治療効果を持つ食品はない

がん治療に明確な効果があるというには、それを摂取することで、がん細胞の増殖よりも早くに、大量のがん細胞を殺して、生存期間に明確な差を出さないといけません。もちろん、そんなことができる食品というのはありません。世界にはたくさんのがん治療がありますが、特定の食品が「がん治療」のガイドライン(推奨治療のレシピ)に含まれているものはなく、日本で保険適応される食品もありません。

摂取する食べ物との関係が非常に高い大腸癌においてのみ、脂質を多く含む西洋的な食事を控えることや、ナッツ類を摂取することが再発予防に効果があることを示されています。(ページ下部に詳細)しかし、それはがん細胞の殺傷効果があるというよりは、食べ物が直接入ってくる大腸の環境を変えて、治療効果が出やすくしているのではと考えられます。ナッツががん細胞を殺すわけではなく、他の癌でも効果が期待できるというわけではありません。

代替医療の中には、がん患者の精神を落ち着ける目的や、副作用の症状を抑える目的で使われる食品は存在します。しかし、それらは直接の治療効果を狙ったものではありませんので、それとも混同しないようにしてください。

がん予防に良いものは、治療にも効くという嘘

がん予防に良いという食品というのは、曖昧なものが多く含まれてしまいます。例えば、肥満は発がんの原因となるものですので、それを防げば効果があるとなってしまえば、かなりたくさんの食品が含まれてしまいます。予防に良いというのは曖昧なものが含まれてしまう土壌があります。正確にいうとちゃんとがん予防できると言うには、相当正確な臨床研究が必要なのですが、多くが曖昧な研究で主張しています。

悪い人たちは、食品に治療効果があることは証明できないので、それでも売るために、予防に良いという曖昧なデータを出して、だから治療にも有効ですと説明していたりします。いつの間にか話がすり替わっているのですが、一般の人には気づかれません。がん予防に良いから治療にも良いというロジックは、怪しい食品を売るのによく使われるトリックです。

発がん予防と再発予防も異なるもの

このような話をすると良く聞かれるのが、がん治療をした後に再発してしまう過程は、発がん過程と同じではないですかと聞かれることがあります。基本的にはこの二つも違います。科学的には、この二つのメカニズムも全然違うことが判明しています。再発は、正常細胞から再びおこるのではなく、ほとんどの場合が殺しきれないがん細胞が隠れていて、ある日から再び増えることで発生します。つまり、再発はヤクザの組を倒そうとして、片っぱしから捕まえたのに、捕まらずに残った組長が組を再興する過程といえます。これは最初のがん化とはだいぶメカニズムが違います。必要とされる対処もがん治療とほとんど同じことがなされます。生き残るがん細胞を殺そうとするためです。再発の中でも、全く違う部位に新たながんができるのは2次発がんと言われて、これは初発のメカニズムに近いものであることが多いですので、予防的な対処がとられることが多いです。

まとめ

がんの予防と治療は全く別のものです。がんの予防に効くからといって、治療にも効果があるように騙す食品などに注意をしましょう。特定の食品を摂取することで、明確な治療効果を得ることは難しいです。

 

<更新情報>

この記事を書いた後の、2018年4月11日に JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGYに以下の論文がでました。

Nut Consumption and Survival in Patients With Stage III Colon Cancer: Results From CALGB 89803 (Alliance)

大腸ガンの再発予防にナッツの積極的摂取が効果を示したという内容で、特定の食品がメタ解析でしっかりと効果を示された大変に珍しいケースが報告されました。この結果はまだアメリカの食品摂取をしている患者への研究なので、日本人の食事で予防効果があるかはわかりません。

大腸ガンは食事が入ってくる臓器そのもの癌ですので、食品との関連が深く、その発生にも赤肉やソーセージ摂取量が関連していることが示されたりと、とても珍しい癌の一つです。この癌だけは特殊であると考えるべきではと思います。大腸ガンの患者さんの場合には、ナッツを積極的に摂取することを試されても良いのではと思います。あまりやりすぎずに可能な範囲で構わないと思います。他の癌においては試す必要は現時点ではないと考えます。

5/24/2018: 上記の大腸ガンの論文内容を含めて、一部文章を改変しました。

抗がん剤に関してのうそについて

ネットでがん治療と検索すると、山ほど嘘の情報が出てきます。その中でもよく見る嘘が「抗がん剤を使っているのは世界の中でも日本だけで、他の国では禁止されている。WHOは抗がん剤使用を禁止している。そのために日本のがん治療成績はアメリカと比べてとても悪い」というものです。なんだかそれらしいグラフとか、なんだか偉そうな人の写真とかでてきます。抗がん剤否定信者がよくこの手の書き込みをしています。

もちろん、これはとんでもない嘘です。実は、この嘘については以前からネットで良く見ていましたが、医療者からすればバカバカしすぎる嘘で、いちいち否定する必要もないかと、あまり気に留めていませんでした。しかし、ネットで患者さんや家族と交流するにつれて、この嘘を信じている人も多く、たとえ完全に信じるまでいかなくても、この嘘に悩まされていることが多いと知りました。そのため、今回の投稿ではこの嘘についてちゃんと解説して、完全否定したいと思います。

抗がん剤とは何か

まず、抗がん剤とは何かという話から始めます。抗がん剤とは、一般的にがんの増殖を抑えるお薬の総称で、化学療法と言われる治療で使われます。一般人の認識としては、投与すると髪の毛が抜けたり、吐き気がしたりするがんに対する薬剤というのがそれにあたります。抗がん剤はがんに対する治療薬の中では、比較的古くから使われているものです。多くのがん治療薬が開発されている現在でも、様々ながん種でまだまだ有効で、たくさん使われています。最近では、分子標的薬といわれるような全くコンセプトの違うがんに対する薬剤が増えていますが、一般的にはそれらは抗がん剤とは表現されないことが多いです。

抗がん剤は世界中で使われている

さて、本題に入りますが、抗がん剤が使われているのは日本だけなのでしょうか?もちろんそんなことはありません。日本だけでなく世界中で使われています。今でも世界中のがん治療を支える重要な薬です。もちろんアメリカでもたくさん使われています。WHOが禁止などしていません。アメリカでもたくさんの患者ががんを治療するため、自分の命を守るため、抗がん剤の治療を受け、たくさんの人がその恩恵を受けています。

日本と他国でがん治療方法に大きな違いはない

そもそも、日本で行っているがん治療は他の国と違うのでしょうか?実際のところはほとんど違いがありません。基本的に世界中のがん治療方法というのはほとんど同じです。日本だけが違う治療をしているということはありません。ぜかといえば、話は単純で、みんなが最も効果のある治療方法を使いたいので、必然的に同じになっていきます。

この情報化社会では、何かの新しい治療方法にすぐれた効果が有るという報告がされれば、全世界の医者がその治療にすぐに飛びつきます。みんな少しでも効果のある治療、少しでも副作用の少ない治療を行いたいですので、必然的に同じ治療を使うようになっていきます。

もちろん薬剤の認可は国別に行われているので、半年—数年の遅れは伴うことはあります。しかし、基本的に良いものは全世界で同じように使われることになります。がんの治療というのは、命がかかっている治療です。他に良い治療があるのに、「面倒だから昔の治療のままでいいや」なんてことは許されません。

基本的には同じ治療方法が行われるはずなのに、国ごとに多少の違いが生まれるとすれば、それはお金や保険の面での違いからです。医療費が高額であったり、医療保険が充実していないなどの理由があると、高額の新薬投与を制限されたり、複数回の手術ができなかったりします。特に、発展途上国では残念ながら情報の遅れも、薬剤を手にいれる困難さなどもあり、最善の治療が行えていない現状があります

あと、違いが生まれやすいのは、まだ十分に有効な治療がない場合です。本当に効く治療があれば、一斉にみんながそれを使いますので統一されます。逆に、まだ良い薬がないということになると、様々な治療が試されるので、かなり違いがでたりします。それは一部のがんでは実際に起こっています。

WHOは抗がん剤を禁止していません

次に、WHOは抗がん剤を禁止しているという話についてです。もちろんWHOは禁止などしていません。こちらのWHOの癌治療についてのサイトを見ていただくと分かりますが、WHOはエビデンス(科学的根拠)に基づいた抗がん剤などの治療を受けるように、根拠のない治療を選ぶべきでないことをはっきりと明記しています。また、30もの抗がん剤をがん治療に必須の薬剤として紹介しています。WHOはむしろ抗がん剤治療を推奨しています。

日本のがん治療成績は世界トップレベル

最後に、日本のがん治療成績についても解説します。結論から言えば、日本でのがん治療成績は世界の中でもトップレベルです。最近に、Lancetでがん治療成績について、世界各国を大規模に比較した研究(CONCORD-3)が発表されました。この研究には、世界71カ国の約3750万人のがん患者について調査されており、世界で最も信頼できるデータと考えられています。

その結果では、日本はほとんどのがん分野で最高レベルの治療成績となっています。特に消化器がん(胃がんなど)の生存率は世界最高峰ですし、その他のがんでもトップレベルです。皮膚の黒色腫などの生存率だけが、他の国より低い結果となりましたが、これは黒色腫が日本ではとても稀で、発見が遅れてしまうことなどの特殊な事情によるもので、必ずしも劣っているとは言えません。

まとめ

今回の結論ですが、「抗がん剤を使っているのは日本だけ、WHOは使用を禁止している。日本のがん治療成績はアメリカと比べてとても悪い」は全くの嘘です。お気をつけください。抗がん剤治療は大事な治療手段です。もちろん副作用が強いことなど問題はあります。しかし、がんという強力な病気に立ち向かうためには必要な手段であり、全世界のがん患者はこの治療に向き合い、病気と戦っています。

 

<追記・修正>

4/25/2018 WHOのサイト情報を追加して、記載内容を修正しました。

高額な治療ほど効果があるという誤解

がん治療についての大きな誤解の一つが、「料金が高い治療ほど効果がある」というものがあります。日本においては、これは明らかに間違いで、「安価な治療ほど良い」と言えます。

標準治療と自費診療

がん治療には大きく分けて二つの種類があります。一つは、標準治療と言われる病院で行われている治療です。これらは健康保険の適応になりますので、一般的に安価な治療です

もう一種類の治療は、自費診療といわれるもので、小さなクリニックなどを中心に行われているもので、健康保険が適応されません。これらの治療は保険がきかないために、一般的に高額の料金を請求されます。

高額な料金がかかる自費診療は、価格が高いので、良く効きそうに思う方も多いと思います。それに対して標準治療は料金が安いので、それほど効果ないと思われるかもしれません。これは全くの勘違いで、標準治療は世界で最も効果が確認されてる治療で、自由診療とは効くことが証明されていない不確かな治療です

この話をするとおかしいと思われる人も多いと思います。世の一般的な商品では、良いものほど高いです。効果があるのに安いなんておかしいと思われるかと思います。実は保険適応になっている治療も本当はとても高額です

標準治療が安いメカニズム

標準治療を行った場合の料金について説明します。例えば、がんになり外科手術を受けると100万円を超す費用がかかります。最近話題の薬剤のオプシーボを使えば月に100万円を超す治療費がかかります。しかし、患者は自費負担分の10-20万円/月程度を払えば良い形になっており、見た目の料金は10-20万円ということになります。実は、残りの多額の料金は税金で払われています。正確には税金で払っているので、大きな見方では自分たちで払っているのですが、実質的に目の前で支払うお金が抑えられています。

病院で治療を受けると10万円、巷の流行っているOO療法は100万円、だから100万の方が効くのではというのは全く間違いです。本当は病院の治療はもっと料金が高いけど、自費分が少ないだけです。国が費用を補ってでもやってもらう価値があるので、お金をはらってくれているのです。

標準治療は選ばれしエリート治療

標準治療は国に費用負担の補助をしてもらえるので、多くの患者が受けることが可能です。そのため、製薬会社は自社の薬を保険適応にしてもらいたいわけです。ただ、国は大変に厳しい審査システムを持っていて、薬が確実に効果があり、副作用がないことを数百人の患者で証明しないと、保険適応の認可をあげません。現在では、新薬候補として開発されたもので、保険認可までいくものは、2−3万個に1個といわれるほど厳しいものです。これほどの狭き門をくぐり抜けた標準治療はまさにエリート治療と言えます。政府はこのエリート治療にしか税金を払ってはくれません。

今まで払った税金を取り戻してください

皆さんは、今までたくさんの税金を払ってきていると思います。それで補われている標準治療を受けるということは、今まで払った税金を取り戻していることになります。ぜひ、お金を取り戻してください。最もおかしな話は、これまで高い税金を払ってきて、やっとその恩恵として治療費を免除されるのに、それを受けずに高額の効果のはっきりしない無保険治療を受けることは、とても馬鹿げています。

海外では標準治療が高額

海外では、保険システムがしっかりしておらず、標準治療を受けるためには、とんでもない高額の支払いが必要なことが多いです。そのため、標準治療を受けられない人が本当にたくさんいます。がんになっても、子供達にお金を残すために治療を受けないという選択をする人もいるほどです。日本では素晴らしい恩恵を受けていることを、もう一度考えてもらって、ちゃんと費用が抑えられた確実な治療を受けるようにしてもらえればと思います。

まとめ

「料金が高い治療ほど効果がある」というのは間違いです。日本では、国の補助を受けられるために、「安い治療ほど効果がある」と言えます。効果が不確かな自由診療にあえてたくさんのお金をかける必要はありません。本当は高額の治療を安く受けられていることを良く理解してもらって、安心して標準治療を受けてください。

 

※「安い治療ほど良い治療」というのは、がん治療に関しての場合です。皮膚科や形成外科などの領域ですと、効果がはっきりと証明されている治療でも、病気ではなく美容目的であるために保険適応とならないものもあります。全ての病気に当てはまるとは思わないでください。

 

なぜ副作用がある抗がん剤を使わないといけないのか?

抗がん剤とはがん細胞の増殖を抑える薬剤のことです。抗がん剤には効果もあるが、吐き気などの副作用を伴うこともご存知かと思います。この副作用のために、抗がん剤に対して否定的な意見をいう人が多いのも事実です。では、なぜ副作用がある抗がん剤をわざわざ使わないといけないのでしょうか?疑問を抱く人も多いかと思います。風邪薬などの一般的な薬にはひどい副作用はほとんどありません。なぜ、がんの薬剤は強い副作用があるにもかかわらず使うのでしょうか?今回は、その疑問について、私なりに答えてみたいと思います。

がん治療とは何をする治療?

最初に、がん治療とはそもそも何をしようとしている治療なのかについて説明します。ここが理解してもらうためにとても重要です。とてもシンプルにいえば、お薬を投与することで、がん細胞のみを殺して、正常細胞には全く害を与えないようにしようとしている治療です。当たり前のことのようですが、実はこれは簡単なようで、極めて困難です。

その理由は、がん細胞は正常細胞と比べて大きく異なる細胞のようで、実はとても似ている細胞だからです。そのため、がん細胞を殺そうとする治療をすると、少なからず正常細胞も殺してしまいます。そのために出る症状が副作用です。例えば、抗がん剤でがん細胞を殺そうとして、お腹の消化管の細胞も殺してしまうと、食欲低下・吐き気などを生じます。

なぜ、がん細胞は正常細胞に似ているのか?

それは、そもそもがん細胞は正常細胞から生まれたものだからです。人体を構成する一部の細胞では、正常な細胞が生まれて、それが成長して、やがて老化して死ぬということを繰り返しています。まさに人の一生と同じです。その過程で、この正常な発達と老化がおかしくなってできるのが“がん細胞”です。例えると、赤ちゃんが生まれて、成長していって大人になる過程のどこかで異常が起こって、好青年がぐれてしまい不良となり、やがてヤクザになるということが“がん化する”ということになります。

つまり、がん細胞は誰のものでもない、あなた自身の細胞からできていて、それがヤクザになってしまったものです。そのため、あなたの正常細胞と似ていて当たり前なわけです。もちろん、いろいろな違いはできます。例えば、大変に増殖が早くなって周りの組織を圧迫したり、細胞の形が変わったりします。これは、ヤクザになると入れ墨を入れて見た目が変わり、周りの人にちょっかいを出して困らせるのと一緒です。

がん治療で行おうとしていることは?

がん治療で行おうとしているのは、警察がこのヤクザだけを捕まえようしているのと一緒です。がん細胞だけが持つ特徴を識別して、それをマーカーにすることで全てを捕えようとします。例えると、入れ墨が入っている人を片っぱしに逮捕するというようなものになります。

ただ、問題なのは普通の人でも入れ墨を入れている人はいたり、周りを困らせる人はいたりします。それらを全て逮捕してしまったら、困ってしまう人もでるわけです。それが実際に抗がん剤を使った際に起こっていることと同じです。

抗がん剤は、がん細胞が持つ大きな特徴である細胞増殖というものをターゲットにしています。しかし、正常細胞でも細胞増殖しているものがあります。それは髪の毛の細胞だったり、消化管の上皮細胞だったりします。抗がん剤によりがん細胞はたくさん殺せますが、髪の毛の細胞も殺されてしまい脱毛したり、消化管の細胞がやられて食欲低下・吐き気・下痢などが起こります。

がんは人間臭い集団

我々がん研究者は“がん細胞”だけを見分けられる究極的な特徴を探しています。つまり、完全にがんにしか出ていなくて、正常細胞には全く出ていないものを探しています。ただ、その探索は何十年もやられていますが完璧なものはほとんど見つかっていません。なぜかといえば、がん細胞はそもそも正常細胞からできている理由に加えて、がん組織自体がいろいろな細胞を含んでいる不均一な集団だからです。

最新研究でわかってきたことは、がん組織には、とってもがんらしいものもいれば、正常細胞にそっくりなのもいたり、ちょうど中間みたいのもいます。また、さらに本当はとっても悪いものなのに、見た目は正常細胞とそっくりだったり、他の細胞をコントロールしている親分みたいのがあったりもします。がんは極めて人間くさい集まりで、単純な同じ特徴を持ったものが増えている集団ではなく、ヤクザも、チンピラも、不良程度のも、見た目は全然悪くないのに実は極悪の経済ヤクザみたいのや、組を束ねる親分みたいのもいたりします。とても複雑です。それらを全てはっきりと正常細胞と区別することはとても難しいのです。

どのようにしたらがんを倒せるのか?

では、そんな難しい不均一な集団を倒すのにどうしたら良いでしょうか?見た目悪い奴だけ倒せば良いんじゃないかなんて、生半可なことを言っていてはあっという間にがんに倒されてします。そのため、一般的な治療で行っているのは、ヤクザ全て、チンピラも、多少の正常細胞が含まれても構わないから、全て倒してしまおうと考えているわけです。組事務所と周囲の一般人の家も含めて爆弾で吹き飛ばしてしまおうとしているのです。そのぐらい本気でいかないと戦いには勝てません。

がん治療には、抗がん剤・放射線治療・手術・分子標的薬などいろいろとあります。今回は抗がん剤にフォーカスしていますが、他の治療でも基本的な狙いはほとんど同じで、がんのほとんど全てを含められて、多少正常細胞も含めて倒してしまうという戦略を取っています。そのため、十分な効果を得るためには多少の副作用をどうしても伴うことになります。

もちろん、研究者も医療者も現在の治療に満足しているわけではありません。特に、正常細胞を巻き込むような治療は、高齢者や体力のない人には大変に辛く、治療を諦めないといけない場面も多々あります。将来的には、完全にがん細胞しか叩かずに、正常細胞には全く影響がない治療が生んで、高齢者であろうと、誰でも副作用に苦しむことなく治癒させたいと思っています。そのような未来を目指して、我々がん研究者は黙々と研究をしています。

まとめ

副作用がある抗がん剤を使わないといけないことには理由があります。それは、がん細胞自体が正常細胞ととても似ているため、がん細胞を十分に倒そうとすると、正常細胞への影響を免れないためです。現在でも、多くのがんで副作用のない完璧な薬は開発されておらず、副作用を伴ってしまいます。しかし、副作用があるから行うべきでないと言っていては、がんとの戦いには勝てません。がんのメカニズムを良く理解してもらうと、本当の治療の意味が見えてくるかと思います。

なぜこのサイトを始めたのか?

今まで、私はFacebookを中心に、がん治療に関する情報提供をしてきました。このたび、このサイトを立ち上げることにしました。このサイトを立ち上げた最大の理由は、がん治療に関する嘘の情報への怒りです。

 

私は、キャリアの最初は脳神経外科医として脳腫瘍患者を実際に診療してきて、その後に基礎研究者として脳腫瘍を中心に、がん全般の研究・臨床を見てきました。その中で感じるのは、世界のがん治療は着実に進化していて、この10年で数多くの”がん”が不治の病いから、治癒可能なものへと変わってきています。もちろん、まだまだ治療が難しいものもたくさんありますが、確実に世界のがん治療は進歩しています。

 

ただ、このがん治療の進歩とは裏腹に、日本では全く治療効果の望めない、とんでもないイカサマ治療や食品が高額で販売されたり、全く意味のない食習慣などの情報が大きく拡散されたりしています。時には、効果のある治療が否定されていたりします。これらは、治療の機会を逸しさせたり、財産を失わせたりという大きな問題を起こし、患者・家族を大きく振り回すこととなっています。このような問題を起こしている背景にはいろいろな問題がありますが、大きな要因となっているのはネットや書籍を始めとした情報媒体による嘘の情報の拡散です。

 

嘘の情報は時に商売のために行われている場合もありますし、時には全く悪意のない一般人によって行われている場合もあります。専門家から見れば明らかな嘘でも、一般人には見抜くことは難しく、どんどん拡散してしまい、その情報が患者や家族を苦しめています。ネットの情報はより極端であればあるほど、真実と離れていればいるほど、人の注目を浴びて広がっていき、その広がる速さは医師や学会が真実の情報を広めていく速度を遥かに凌駕しています。また、嘘の情報を拡散している人に比べて、正しい情報を報告している人があまりに少ないです。医療関係者はとにかく忙しいため、情報提供を実際に行うことが難しいという現状もあります。この状況を少しでも改善しないといけません。

 

私は1年ほど前よりFacebookで、がん治療に関しての正しい情報を提供するべく、微力ながら活動してきました。そこで分かったのは、嘘の情報に振り回されている患者や家族があまりに多いこと、正しい情報を欲している人があまりに多いという実態でした。そして、がん治療に関した正しい真実の情報も、たとえ難解な内容であっても、ちゃんと一般の人が理解できるように噛み砕いて書けば、大きく広まってくれるということもわかりました。

 

そこで、このサイトでやりたいと思っているのは、がん治療の正しい情報を、できるだけわかりやすい形で報告して、嘘の情報に惑わされる人を少しでも減らしたいと思っています。がん治療は命をかけた戦いです。しかも、常に時間との戦いともなります。間違えた選択をすることは人生を狂わせることになりかねません。特定のがん治療を選択することは、ある意味では人生の選択にもなります。その選択はとても大事なもので、自分だけではなく、家族にとっても大事なものです。選択を誤ってしまえば、最愛の子供たちの成長をみることもできなくなってしまいます。その大事な選択を嘘の情報でさせてはいけません。何とかしないといけません。

 

もちろん、私の力だけではとても足りませんので、多くの先生方のお力もいただきたいと思っていますし、患者さんやその家族などのお力もいただきたいと思っています。まだまだ未熟で勉強をしている私ですので、至らない点や、間違いをおかすこともあるかもしれません。このサイトを運営しながら、私なりに学んでいき、成長していけたらと思っています。どうか、優しい目で見ていただけたらと思います。どうぞ、よろしくお願い致します。